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東京高等裁判所 平成11年(ネ)5364号 判決

控訴人

各宗連合仏教会円満院

右代表者代表役員

小松賢壽

右訴訟代理人弁護士

中島修三

青木裕史

柴田義人

被控訴人

エムシー・リフォーム株式会社

右代表者代表取締役

中野靖夫

右訴訟代理人弁護士

小川秀史郎

波多野健司

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴の趣旨

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の請求を棄却する。

3  訴訟費用は、第一、第二審とも、被控訴人の負担とする。

二  控訴の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二  事案の概要

争いがない事実、争点及び当事者の主張等の事案の概要は、次のとおり付加し、訂正するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決一一頁四行目の「したがって」から同行末尾までを次のとおり改める。

「 本件建物の建築請負契約においては擁壁部分の設置と仕上げは契約の重要な要素の一つであり、これらが前記1ないし3のとおり履行されていないのであるから、仕事の未完成に当たるものであり、本訴請求は認められるべきでない。また控訴人は、前記1ないし3を本件建物の瑕疵として、その修補がなされるまで請負代金の支払いを拒絶する。」

二  同一三頁二行目末尾の後に、次のとおり加える。

「また、控訴人は、訴外会社等に対して、工事遅延に対する許諾や追加費用の支払い等の相当の譲歩をしているにもかかわらず、同会社は仕事を完成させていないこと、既に控訴人は一億三五〇〇万円という高額の請負代金を支払っていること、本件建物の引渡時においても代理受領権があると称した協和エンジニアリングが不当な要求を行い、本来支払義務のない五〇〇万円を支払ったこと、途中で工事が放棄されたため、隣地所有者から苦情を受けそれらに対する対処をしなければならなかったこと、現実に小さい瑕疵については控訴人が補修していることも考慮されるべきである。」

三  同一三頁一〇行目の「建築設計図面」から末行の「該当箇所はなく」までを「西側立面図(乙第一号証の三)の凡例欄には「Dミカゲ石貼り」と記載されているが、その立面図自体にはDの箇所が記載されておらず」と改める。

第三  当裁判所の判断

一 当裁判所も、被控訴人の本訴請求は全て理由があると判断するものであるが、その理由は、次のとおり訂正し、付加するほか、原判決「事実及び理由」欄の「第三 争点に対する判断」欄記載のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決一八頁七ないし八行目の「建物南側の境界の擁壁工事に係る瑕疵の主張(前記第二の三の被告の主張の2)について」を「本件建物南側の境界の擁壁工事について」と改め、二〇頁五ないし六行目の「本件工事にはこの点で瑕疵があるというべきであり、」を削除し、同頁七行目の「瑕疵修補」を「工事」と改める。

2  同二一頁一行目冒頭から二行目末行までを「御影石貼り工事について」と、二五頁四行目の「本件工事には」から六行目の「代金額は」までを「その工事に要する費用は」とそれぞれ改める。

3  同二八頁九行目の後に改行して、次のとおり加える。

「四 控訴人は、本件建物の擁壁部分の設置と仕上げは本件建物の建築請負契約において契約の重要な要素の一つであり、それらが履行されていないのであるから、仕事の未完成に当たるものであって被控訴人による請負代金請求は認められるべきでない旨主張する。

しかしながら、当事者間に争いのない事実及び認定事実に、証拠(乙一の3、五、六)及び弁論の全趣旨を総合すると、本件建物の建築請負代金は、追加工事代金も含め、総額で一億八四〇〇万円であるところ、そのうちの未施工部分の完成に要する費用は二六八万五四七五円であって、工事代金からすると約1.5パーセントを占めるにすぎないこと、未施工の箇所は、一つは、本件建物自体ではなく、その敷地の隣地との境界の擁壁工事であり、他の一つは本件建物自体に関するものであるが、地下二階、地上五階建ての建物のうちの一階外壁部分の仕上げ工事にすぎないこと、しかも一階外壁の未施工状態はコンクリート打放しであるが、当初の契約に係る図面上同様の外壁が予定されていた箇所もあり(乙一の3のB部分)、建物の外壁として違和感を感じさせる状態ではなく、現に控訴人自身、平成九年一二月二四日に引渡しを受けて以来二年近くそのままの状態で使用していること等の事実が認められる。これらの事実からすると、本件建物は既に完成し、前記の未施工部分は建築工事の瑕疵に当たるものとするのが相当である。控訴人の右主張は理由がない。」

4  同二八頁一〇行目の「四」を「五」に改める。

5  同二九頁九行目冒頭から三三頁五行目末尾までを、次のとおり改める。

「 そこで、本件について検討するに、当事者間に争いのない事実及び認定事実に、証拠(甲一、二、四、一四、乙二の1、2、五、控訴人代表者)及び弁論の全趣旨を総合すると、未払残金額は四九〇〇万円であるのに対し、瑕疵修補に要する費用は二六八万五四七五円であって、約5.5パーセントにすぎないこと、瑕疵の内容も、敷地の隣地との境界の擁壁建築工事及び地下二階、地上五階建ての本件建物一階外壁部分の仕上げ工事の未施工にすぎず、本件建物の使用とは無関係であるばかりでなく、美観上も違和感を感じさせるものでないこと、現に控訴人は、平成九年一二月二四日に本件建物の引渡しを受けて以来二年近くそのままの状態で使用していること、控訴人は、本訴に至るまで、相当の期限を定めて瑕疵の修補を求めるなど、本件建物の瑕疵修補と引き換えに請負残代金を支払う旨を主張したことはなく、債権差押命令申立事件の第三債務者の陳述において、本件建物の瑕疵による損害賠償請求権を控除した額を支払う意思がある旨を陳述していること、ところが本訴においては、第一審裁判所の再三の釈明にかかわらず、瑕疵修補に代わる損害賠償請求権を自働債権とする相殺の主張をせず、訴外会社が平成九年一一月に事実上倒産して、建築施工能力を失い、本件建物の瑕疵修補を行うことは困難な現実にあることを認識しながら、残代金の支払いについては瑕疵修補との引換給付を求めていることが認められる。そうすると、控訴人は、請負残代金額からすると軽微と評し得る本件建物の瑕疵を理由に、従前の態度を翻し、現実的には実現可能性の乏しい訴外会社に対する瑕疵修補請求権との引換給付を主張するに至ったと言わざるを得ないのであって、控訴人のこのような同時履行の抗弁権の行使は、信義則に反して許されない。

控訴人は、訴外会社に対して、工事遅延に対する許諾や追加費用の支払い等の相当の譲歩をしていること、既に控訴人は一億三五〇〇万円という高額の請負代金を支払っていること等の点から、控訴人が同時履行の抗弁権を主張することが信義則に反しない旨主張するが、前記説示のとおりであって、本件建物における瑕疵の程度、控訴人の本件工事の残代金支払いに関する態度及び訴外会社の現状等を考慮すると、控訴人の同時履行の抗弁権の行使は信義則に反するものと言わざるを得ないものであって、控訴人の主張は失当である。」

二  右のとおりであり、被控訴人の控訴人に対する四九〇〇万円の支払請求及び右金員に対する附帯請求を認容するとともに、その支払いを供託の方法によるべきこととした原判決は相当であり、本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法六七条、六一条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 谷澤忠弘 裁判官 一宮和夫 裁判官 大竹たかし)

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